熱い額/大学生(19)×大学生(19)/ラブラブ同級生
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「マイスウィートハニーっっ!! 会いたかったあ!!!」
オレは愛しい恋人の姿を見つけるなりそう叫び、荷物をうっちゃって駆け寄った。到着ロビーにいる人間全員がいっせいにオレたちに目を向けるが、人目など気にしてられるか。前回の休暇に会ってから、半年振りの再会なのだ。相思相愛まっさかりの恋人同士にとって、傍に居られない半年は千年に等しく、一緒に居る一日は一時間に感じられるもの。それが相対性理論の真理なのだと、かのアインシュタインも言っているのだ(本当)!
駆け寄ってその勢いのままぎゅうっと抱き締めると、ハニーはやや逃げ腰になりながらもおずおずと腕をオレの背に回す。オレの可愛いハニーは恥ずかしがり屋でシャイなので、どうしても周囲の視線が気になってしまうのだ。まあそれが分かっていて、恥じらうさまがあんまりにも可愛いものだから毎回毎回派手に帰還の抱擁をやっているというのもあるのだが。恥ずかしがりながらも、嫌がらずにオレの抱擁を素直に受け入れてくれるところなんか、もう可愛すぎて愛しすぎて、毎回その場で押し倒したくなっちまう。
「お……おかえり……相変わらず、だな……知ってるけど」
ハニーはオレと同い年の十九歳なのだが、成長期の育成結果があまり芳しくなく身長が百五十八センチしかないので、抱き締めるとオレの胸に顔を埋める格好になる。華奢な体格という訳ではないが、オレがその気になればお姫様抱っこも楽勝だ。だが、それはハニーの男としてのプライドを傷つけてしまうので、どんっなにやりたくてもやらないことにしている。
「ああ、やっぱり本物はいいっ……会いたくて死にそうだったぜ」
ぐりぐりと髪に顔を埋めて恋人の感触を堪能する。シャンプーの匂いに混じって、オレのプレゼントした香水の香りが仄かに香るのがまた嬉しい。
「大げさだな……毎日、スカイプで話してたじゃないか」
ハニーはちょっとツンデレ入っているので、素直に愛情表現をしてこない。だが、わざわざ愛の言葉を語らずとも、全身から言動から、オレにメロメロなオーラが漂っているので問題ないのである。オレに抱き締められて触れられて、内心ではふにゃふにゃに蕩けちゃってるのがわかるからいーのである。
ああ、ここまでくるのが長かった。私立の中高一貫男子校、足掛け六年かけて口説き落とした。中二の時の文化祭告白事件(入学式から好きだったと告白してドン引きされた)、クリスマスクライシス(ハニーが幼馴染の女の子に失恋した)とバレンタインショック(と思ったら別の女に告白されて付き合いだした)、中三の春には熟年離婚騒動(うちの親が離婚しかけて大変だった)、夏には納涼肝試し危機一髪(部活の合宿の肝試しでハニーの貞操が狙われた)があって、年末にはブレイクハートカウントダウン(ハニーが彼女と別れた)、バレンタインショックリターンズ(今度はオレが先輩に告白された)、涙のマイグラデュエーション(卒業式にいい友達でいてくれと改めて念を押された)……。いい加減読むほうも疲れただろうが、この後更に波乱万丈の高校生活が三年あったんだからな。オレの涙ぐましいまでの愛と情熱と忍耐力を察して欲しいってもんだ。
そんな風にしてやっとラブラブになった二人なのに、どうして今、成田空港で再会の抱擁をしてるかって? それはオレが、イギリスの某大学に留学してしまったからである。
高校三年でのオレとハニーの間に起きた最後の事件がそれだった。オレはハニーが大好きだったけど、それとは別にやりたいことはあったし、離れるのは無茶苦茶嫌だったけど、恋人と一緒に居たいがためだけに進路希望を変えることは出来なかった。例え何万キロと離れていようがオレの愛は永遠不変・天壌無窮だと理解してもらうのに、随分と時間がかかった。最後はハニーも笑って送り出してくれたけど、でも、やっぱり遠距離恋愛で寂しい思いをさせていることに変わりは無い。だからこそ、会えた時には会えなかった期間の分も含めて、もうぐっちゃぐちゃになるまで愛するって決めてる。
「なあなあハニー、前に言ってた、オレをびっくりさせるようなことって何?」
「ああ……今じゃなくて、後で話すよ」
「いやだ、今ここで聞きたい。直接話すって言うから、ずっと聞きたくてうずうずしてたんだ。な、な? 話してくれるまで離さないからなっ」
駄々をこねてぐりぐり躯を摺り寄せると、ハニーはしょーがねーなお前は、と苦笑してから話し出した。
「……あのさ、実は……オレ、秋から三ヶ月間そっちに行くことになったんだ」
「え!?」
「短期の交換留学生、大学で募集してて。その試験、受かったから……だから、今度はオレがそっちに行くから」
「ええええっ!? ほ、本当に!?」
驚いたか? と訊ねるハニーに、うんと頷く。嬉しいか? と更に訊ねるハニーに、うんうんと頷く。確かに踊りだしたいくらい嬉しいが、しかし。
「でも、大丈夫なのか? 飛行機、閉所恐怖症で駄目なんじゃ……」
以前はエレベーターにも一人で乗れないほどだった。中三の時の肝試しだって、それで失神して貞操を奪われかけ以下略。あ、ちなみにハニーの貞操はその後ちゃんとオレが頂きました、あたたかくて柔らかくて甘く蕩けて超絶美味しかったです。
「いつまでも同じだと思うなよ、これでもだいぶ改善されたんだからな。エレベーターも飛行機ももう大丈夫だよ。……それに……」
「『それに』、?」
小声になって口ごもるハニーに続きを促す。言いかけてからしまったと思ったようだが、そこで寸止めはオレが許さない。
「お、オレだってお前と一緒にいたいし、そのために乗るんだから、……大丈夫だよ」
あああああ。恥ずかしそうにそう呟いて、真っ赤になって眼を逸らしちゃうなんて、反則過ぎるぜハニー。可愛すぎて好きすぎておかしくなりそうだ、もうお前はそれ以上おかしくなりようが無いってよく突っ込まれてるけどさ。
胸の奥から込み上げてくる愛しさに耐えかねて、オレはハニーの前髪を上げると可愛いデコにキスをした。唇で触れた額は、熱を帯びて熱かった。
「あ、こら、人前でそういうことっ……」
「何言ってるんだ、ハグとキスは向こうじゃデフォルトの挨拶だぜ? でもほっぺたは屈まないと届かないから、この場合はこれが正解」
「そ、そうなのか? いや、でもここは日本だしっ……」
とりあえず受け入れちゃう素直なところがハニーの長所だ。ほっぺたへもそれ以外のところへのキスも、あとでたっっぷりするからな。まあ、今はこれで我慢しておこう、あんまり調子に乗ると怒らせちゃうからな。
「愛してるぜハニー、今夜は寝かせないから、覚悟しておけよ?」
お決まりの台詞だって、愛を育む肥料になるなら惜しまないのがオレのモットーだ。ま、実際百パーセント本音だし。オレの最愛の恋人は、真っ直ぐな瞳でオレを見上げて微笑んだ。
「……覚悟なら、とっくにしてるよ」
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