甘い唇/天才魔道士(?)×謎の少年(?)/異世界ファンタジー
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のどかな秋の昼下がり。どこかの世界のどこかの国のどこかの街の誰かの屋敷の一室で、話し合ってる人影二人。
ひとりは、ずるずるした衣装を着た青年。黒髪眼鏡長身。不健康そうな白皙の肌。
もうひとりは、あっさりした衣装を着た少年。灰髪に円らな赤紫の瞳、健康そうな浅黒い肌。
部屋は実験室か研究室のよう。怪しげな実験道具が雑然と並んでいるテーブルに、ちょこんと腰掛けている少年と、彼に向き合っている青年。
青年が、少年に語りかける――。
「――なるほど。君の苦悩はそういう訳なのですね、確かに君の存在意義に関わる重大な問題です」
「そうなのです、お師匠さま。僕は、ロロの血を引くのですから、それはこの世界に今や僕ひとりなのですから、そういうわけで、早く子供を作らないといけないです、それはもう出来るだけ早く」
「しかし、君は五百年の眠りから目覚めてまだひと月しか経っていないのです。その問題は確かに非常に重要ですが、何も急ぐことはないのでは? 君の調査もまだ始まったばかりなのですよ、繁殖に関する調査も含めて」
「はんしょく? それは男色の親戚ですか、お師匠さま」
「行為は同じですが意義は正反対です。そもそも、君は子供を作る方法を知っているのですか?」
「そこはいざとなったら煩悩というものがなんとかしてくれる、と、期待しているのです」
「本能ね。まあ、君のお相手が君と同じくロロの種族だったらね、お互いの本能が共鳴してなんとかなるかもしれませんが」
「でも、僕は見た目はお師匠さまたち人間とそっくりなのです。ゆえに、繁殖方法も同じじゃないでしょうか、と、勝手に期待しているのです」
「期待するのは君の勝手です。君、つまりロロ、ロヴァンデピネス・ロンゴノイドはもともと擬態に長けた種族で、人間とは全く別の進化を遂げた謎の生物なのです。長年の間に人間の姿に擬態するようになったようですが、外見が人間そっくりだからといって、繁殖方法まで一緒とは限りません。――見たところ、生殖器の外観もそっくりですが、機能まで同じかどうか。というより、君の性別もまだ断定できませんしね」
「うー……反論、します」
「どうぞ。――それにしても君の言語能力は素晴らしい。わずかひと月で、ゼロからここまで習得するとは。声帯もそっくりですから発声そのものは問題ないのではと期待していましたが、ロロの知力は予想以上。こんなに知的で魅力的な生物を絶滅に追い込んだ人間という種族を、僕は心から軽蔑しますね。――自分も含めて、ですが。ああ済まない、さあどうぞ、言いたいことがあるのならなんでも」
「僕が一人だけ、ずっとロロの遺跡の中で眠っていたのは、ロロの血を残す、そのためだけなのです、まさに。それが使命なのです、僕の」
「君の使命? ――それじゃ、眠る前の記憶を取り戻したのですか?」
「はい、うすらぼけっと。目が覚めたら、子供を作りなさいって……今は出来ないけど、目が覚めたらそうしなさいって誰かに言われて、眠ったような」
「なるほど。……伝説によると、ロロは躯が致命的なダメージを受けると、繭を作ってその中で回復するとか。それ故に繭の治癒能力が狙われて、ロロは人間に滅ぼされたのです。今でも『ロロの繭糸』は希少な秘薬として高値で取り引きされています」
「はあ」
「君はかつて人間に殺されかけたのですよ、繭のために。そして他の仲間は繭を取られて傷が治らずに死に絶えたのですが、君だけは封印の魔術をかけた地下室の中に居たために見つからなかった。……それはきっと、仲間が君だけは逃そうとしたのでしょう。封印は君以外のロロの種族が死に絶えたために破られることなく、君は繭の中で眠り続け、傷も回復し、そのままうっかり五百年も眠ってしまい、そしてこの僕に発見されたと」
「お師匠さまが僕を起こしてくれて、とっても感謝です、それはもう心から」
「いいのですよ。あの封印を解読できたのは後にも先にも世界でただひとり、不世出の天才魔道士のこの僕だけ。ならばそれはもはや必然の運命、神の導きでしょうからね。それに君の繭のお陰で僕の懐もかなり潤いました。傷が完治した後の繭糸に効力があるのかどうかは怪しいですが、まあ、買った奴の命がどうなろうと僕の関知するところではないですし」
「……お師匠さまは、繭が欲しいですか?」
「いいえ、僕が欲しいのは君だけです」
「よかった。それじゃ、僕を傷つけないです?」
「当然です、大切な君の体にかすり傷ひとつ負わせたりはしませんよ。君はね、僕の今後の一生を捧げるに足る存在です。五百年前に絶滅したと思われた謎の種族のたった一人の生き残り――これ以上の興味をそそる研究対象など存在しない。ロロの謎を解き明かし、君の存在を世に公表した日には、僕の名は間違いなく魔道史に残るでしょう」
「お師匠さまの名前が場違いな熊同士に残るのはいいことです、きっと」
「ともかく、君の使命はわかりました。繁殖の使命が君一人に課せられたという事は、ロロは単性生殖の種族なのか……面白い、非常に興味深い――」
「お師匠さまはわかってくれました。だから、僕は子供を作りますので、お師匠さま、僕に手を出して下さい」
「手を『貸して』下さい、ですよ。いいでしょう、いずれ調べることですから。では服を脱いでそっちの台の上に横になって――まずはもう一度、君の躯を具に調べましょう」
「はい。――お師匠さま、冷たいです。台が」
「我慢しなさい。おや――随分、体温が上がってますね」
「はい。なんだか、頭と躯が熱を上げてますっ…ちょひゃっ」
「そんな言葉ありません。動いちゃ駄目ですよ、ほら口を開けて舌を出して」
「お、お師匠さま、ちょ、そこは…っ」
「そこって、僕が今触っているのは君の顎と頬ですが」
「そ、そこをお師匠さまに触られると、僕の体はびっくりしてます、とても――…」
「おや。それはどういうことですか?」
「あっ、や、やだめです、びっくりしちゃう、次々とびっくりしちゃうです――っ…」
「『やだ』と『だめ』とちゃんと言いなさい、言葉を省略するのは僕は好みません。くすぐったいのは我慢しなさい。……ん……?」
「う――…、んっ……」
「濃密な甘い匂い……口腔から? 蜂蜜のような、黒蜜のような……。これは面白い、ロロは頬と顎を刺激されると特別な体液を分泌するのか――?」
「お、お師匠さま――…っ」
「はい? ――!」
「……んっ……」
「…………。甘い、ですね。君の唾液は、まさしく蜜。にしても、突然僕の唇を奪うとは、どうしました?」
「思い出した、です……子供を作る、方法……お師匠さまのここと、僕のここを、くっつけるです」
「それは人間ではキスという行為ですが、ロロはまさか異性とのキスで生殖するのですか? すると単性生殖ではない?」
「男性性欲って言葉はわからない、ですけど、……これは、一番最初に、その相手と子供を作りたいかどうか、知るためにする、です……」
「なるほど、人間と良く似てる。しかし残念ながら、僕が相手では子供は作れませんよ。君は雄のようだし、もし外見に反して雌だとしても、僕は種族が違うから根本的に無理。わかるでしょう?」
「いいえ、僕は、子供を作るのです。お師匠さまがロロじゃなくても、僕が、お師匠さまと一緒に子供を作りたいと思えば、それが、一番大切で、必要なのです。僕は今、お師匠さまと子供を作りたいと思いました。キスをして、もっと強くそう思いますっ……」
「……」
「ロロは、キスして違うと思ったら子供を作らないです、たまごが出来ないです。キスして子供を作りたいと思った相手と作れなければ、ずっと死ぬまで、たまごは出来ないです」
「それはまた、非効率的でロマンチックな。道理で滅びる訳だ」
「でも、そんなことは滅多にないのです、ロロは大概、キスで気持ちが通じるのです。お師匠さまには、僕の気持ち、通じないですか。僕と子供を作りたいと、お師匠さまは思ってくれないですか」
「思いませんね。僕は、自分の子供など想像もしたくないのです。まあ確かに、君の子供には興味をそそられますが――」
「それじゃ、お師匠さまは僕の子供が欲しいですね、気持ちが通じたです! 僕は嬉しいですっ!」
「…………(通じてねー)」
「僕はこの世界でたった一人のロロじゃなくなるのです。お師匠さまと、子供と、一緒に暮らせるですっ」
「…………。……いいでしょう。『相手がロロじゃなくてもいい』という言葉が引っかかりますしね。もしも他の人間に相手をさせたら、そこから君の存在が公になるという可能性もある――それならば、この状況はむしろ好都合……」
「お師匠さま?」
「どうせ研究の一環、子供が出来たらその時はその時、また考えればいいのですから――」
「お師匠さ…、! ……」
「……――キスっていうのは、こうやるんですよ――……覚えなさい」
「……んんっ……ん、……は、はい……っ」
「……君の唇は、本当に甘い。どうやら、ロロは発情すると口腔から蜜を分泌するようですね。それをキスで確認して互いが子作りに最適な相手か見極めると、そういうことなのか。この蜜には、何らかのフェロモン作用があるのでしょう……おや、震えていますね、どうしました?」
「あ、あ……、下、から――どろって……」
「ええ、溢れ出てますね。ペニスからどろどろと――透明な分泌液が」
「あっ! だ、駄目、触っちゃ――やあっ…ぁ」
「硬く屹立して、人間の雄と全く同様の反応を示している。――しかし、これは? ちょっと体勢を変えてくれますか、そう、膝を抱えて胸に寄せて――もっと足を開いて。ああ、それでいい、君の陰部がとても良く見えます」
「や……お師匠さま……な、何を……」
「君の分泌液をね、採取しておくんですよ。ふむ、面白いですね……これも、甘い香りを放っている。ということは、やはり甘いのか――」
「やぁあ! な、舐めちゃ――ぁ……!」
「……んっ……これはまた、癖になりそうな甘さですね。蜂蜜ほどくどくも粘りも無く、花の蜜に近い品のある甘さ。口腔の蜜とは味が違うが、同じ役割なのか、違う役割なのか……或いは人間と同じ、潤滑液なのか……」
「ぁ……ああっ……あ…おししょさま、舐めてもらうの……気持ち、いいっ……」
「快感を感じるということは、ペニスの蜜は舐めるのがロロの生殖行為として正しいということなのでしょうね。――しかし、問題はペニスよりもこっち、ですね……」
「や、そこ、っ…ぁ!」
「さて、アナルからも同様の分泌液が出ているとはどういうことでしょうね。これが膣口なら、君は両性具有か半陰陽ということになりそうですが」
「お、おししょ……さま、そこ、さわ……られ、と――……っ……」
「我慢しなさい。今から君の中を調べますから、痛かったら言いなさい。安心しなさい、傷をつけるようなことはしません」
「は、はい……? ――! あ、ああっ……! お、おししょ、さま――の、指がっ……ぁ」
「分泌液のお陰で楽に入りますね。ローション要らずだ。痛くはないですか?」
「はい、き、気持ちいい、ですっ……すごく――……」
「ロロは生殖器を弄られると快感を感じる……重大な事実ですね。もともとそうなのか、或いはそこまで人間に似せたのか……」
「お師匠さま――……あの、僕は、……」
「なんです?」
「僕は、き、キス、して……欲しいです」
「そうですか。良い子ですね、そうやって本能が命じることは何でも僕に伝えなさい。そうでなければロロの生殖の実態がわからない。さあ、舌を出して」
「んっ……ん、お師匠さまの口も、甘い……」
「君の蜜のせいですよ……ん――? ここは、もしや前立腺か……?」
「ひゃ! あ、……ぁあ…っ、や、うぅっ……」
「我慢せずに声を出しても良いですよ、どうせ僕と君以外誰も居ないのだから。ふむ……どうも膣に繋がってる感じはないな……もっと奥?」
「あっ! ひ、あっ……な、中、ぐにぐにされちゃうと…っ…」
「……っと……どんどん蜜が溢れてきますね。中も外もぐちょぐちょだ。……困りましたね、滑り過ぎてこれではわかりません」
「あっ……、や、やめちゃう、のですか…?」
「おや、止めて欲しくない? どうして欲しいと君の本能は言ってます?」
「えっと……触ったり……舐めたり、して欲しいです、こことか……こことかを」
「ペニスとアナルを、ですね、いいですよ。快感が頂点に来たら、精液が出るのかもしれませんしね――それもまた、この蜜と同じように甘いのか……」
「んっ……ふ、お師匠さまの舌、柔らかく…て、あったかくて…気持ち、いいっ…」
「――そういえば、ロロも母乳で子供を育てると文献で読んだ気がしますが、それは雌雄どっちの役割なのでしょう。君のここから母乳が出るのなら面白いですけれど」
「あぁん! や、おししょさま、そんな……吸われちゃうと、ぁん、あぅっ……」
「硬くなってますよ。性感帯も人間と殆ど同じ……君の推論は正しかったようですね……」
「も……う、やっ……躯が、あっつい……勝手に、動いちゃ、う……」
「……。……君が喘ぐ度に、甘い匂いが強くなる……」
「はぁっ……! ち、乳首、くにくにってしちゃだめえっ……」
「上の口からも下の口からも、蜜を零れさせて……躯中を蜜塗れにして互いに絡み合い、融けるのか。ロロの生殖は人間よりずっと淫靡だ――」
「あぁ……あ、お、お師匠さま……?」
「……不思議ですね……僕は性欲というものを感じない性質のはずなのですが……」
「おししょさまの、お股が、……何か、硬いもの、いれてる、ですか…?」
「そうか――君の蜜には、強力な催淫成分が含まれているんですね……そうでなければ、説明がつかない」
「はぁっ! や……、そ、そんなに舐められたら、僕のお股が、とけちゃぅっ……ん……」
「小麦色のなめらかな肌の双丘――の奥に、ピンク色にひくつく蜜壷……。そのそばにも、甘い糖蜜を纏った棒菓子。この蜜は、甘過ぎる――……」
「……ししょ、さまぁ……ぼく、も……ぅ……」
「――……僕も、ですよ」
「! ひゃ!? お、お師匠さまっ……あ……っ!」
「……吸い付いてきますね、君の襞は……」
「は、ぁあっ……僕の中が、お師匠さまのペニスで、奥まで、ぎゅうぎゅうっ……」
「……動きますよ――……僕にしっかり掴まりなさい」
「あっ、あ、ぁ……あう、まれちゃうっ、……うまれちゃい、ますっ……ああっ」
「……くっ」
「たまご――、……おししょうさまと、僕の……っ――……!!」
三日後。
「ですからそれはね、無精卵なんですよ。いくら温めても子供は生まれてこないんです」
「違います、生まれます、だって中でうごうご動いてます、僕にはわかるんです」
「そんなはずはないんですよ。もし仮に君の言う通り、異種族間、つまり君と僕との間に子供を作ることが可能だとしても、僕は君の中に種を出さなかったんですから」
「違います、生まれます、だってあの時、僕とお師匠さまで子供を作ったんです。ほら、とくとく音が聞こえるでしょう」
「……そんな馬鹿な……いや、落ち着いて考えましょう」
「どんな子供か楽しみです、僕はパパになるです♪ あれ、違います、お師匠さまがパパですか? そうだ、僕はパパじゃなくて母です」
「仮説一、眠りに入る前に他のロロと生殖行為を行い、眠りに入ったために受精が遅れ、目覚めた後に受精し子供が出来た――そう、種も五百年眠っていた、という可能性。これが最も可能性が高い」
「お師匠さま、子供の名前は、どうしましょう」
「仮説二、ロロはそもそも両性具有、あるいは状況に応じて自在に性を変えられる生物であり、有性生殖と単性生殖を切り替えられる。有性生殖と見せかけて、実は単性生殖――子供は、純然たるコピー。これが次に可能性が高い。次に仮説三――……」
「お師匠さまってば――」
「! ……。不意打ちのキスは駄目だと教えたでしょう。なんです?」
「この子の兄弟を作りましょう。そうしたら、この子も寂しくないです。僕もお師匠さまも今よりもっと寂しくないです、それはもう楽しいです」
「…………」
「今のキスでお師匠さまと気持ちが通じたです。お師匠さまももっと僕と子作りしたいと思ってます、子作り嬉しいです、でしょう?」
「……君と子供を作る行為は、確かに嫌いじゃないですがね……」
「お師匠さま、僕、僕の気持ちをなんていうか、言葉を調べて覚えました。僕、お師匠さまが大好きです。僕と変態しましょうっ」
「……。……変態じゃなくて、恋愛」
「あれ? また言葉、間違えましたか?」
「研究対象と恋愛など御免です」
「ゴメン? ってどういう意味ですか?」
「――と、言ったでしょうね、三日前なら。……だが」
「! んっ。んー……」
「……君の唇は、喩えではなく事実、甘い。――実に、甘い――」
「ん……それは、おいしいことですか? お師匠さま」
「ええ、僕にとっては。――――僕はね、甘味には目がないんですよ」
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